ある若者の、停滞感で覆われた空気を変えた勇気あるひと言

「他に質問が無ければ説明会はこの辺にして、希望者のみ入門手続きに移らせていただきますが、よろしいですか」
 N・Mが説明会を締めくくろうとすると、見慣れない顔が高らかに手を挙げている。
「わ、Y?」
隣の母親が今にも腰を抜かしそうな表情で感嘆した。今の今まで講堂の片隅でただ座り込んでN・Mの話を聞いているのみだったK・Yという寡黙そうな若者は
「俺、入門します」
 はっきりとそう言い残すと立ち上がって母親を一人残して、講堂の玄関に向かうなり黙々と靴を履き始めた。
「イヤッホー!」
 N・TとS・Kが手を叩いて拍手と共にK・Yを見送った。しかし、無口なK・Yの発言はそれっきりだった。K・Yは立ち上がると、道場の説明会に訪れた参加者の中で最も大柄な図体で一礼すると、そのまま一人で帰ってしまった。
 K・Yは天然の無口なのか、敢えて口を噤んでいたのかは分からず終いだったが、N・T、S・K、N・Hなどの色濃い面子の中でK・Yのような若者がここぞという時に思い切って発言したのは極めて勇気ある行動だったと思う。ミュゼ 予約変更 ログイン